肝臓の病気と治療

1.肝臓とは

肝臓はお腹の最も頭側(胸の直下)にある重さ1㎏以上の大きな臓器で、おもに右の肋骨の奥に納まっています。腸で吸収した栄養を含む血液はほぼすべて肝臓に流れ込んで、肝臓の中で体に必要な形に加工されます。流れ込んだ血液はその後肝臓のすぐ上にある心臓に向かって流れ出ていきます。
そのため、肝臓内には血液を流し込む血管と血液を運び出す血管が、2本の木が枝を重ねたように埋まっていて、その中を大量の血液が流れています。

肝臓はお腹の最も頭側で肋骨に取り囲まれた位置にあります。 門脈と肝静脈は肝臓の隅々まで枝分かれして広がっており、肝静脈は下大静脈に流れ込みます。

2.当科で診療対象としている肝臓疾患

当科では肝臓にできる良悪性の腫瘍、嚢胞、結石などの治療を行っています。肝臓にできる悪性の腫瘍は原発性腫瘍(肝臓の細胞が悪性転化してできる腫瘍)と転移性腫瘍(肝臓以外の臓器にできた腫瘍が肝臓に転移したもの)に分けられます。原発性腫瘍には肝細胞がんと肝内胆管がん(胆管細胞がん)、これらが入り混じった混合型肝がん、粘液嚢胞腺がん、肝芽腫、未分化がん、悪性リンパ腫、その他の肉腫などがあります。転移性腫瘍の中で手術による切除の対象になることが多いのは、大腸(結腸・直腸)がん、神経内分泌腫瘍の転移です。なお、肝臓は手術で切除されて容量が小さくなっても、数週間~数か月後には元の容量に戻ります。そのため、病気が再発した際には、再度手術によって切除することも選択肢の一つになります。

悪性腫瘍以外には、肝血管腫、肝内結石症、肝嚢胞などが手術の対象になることがあります。

3.肝臓の疾患に対して行われるさまざまな治療

肝臓の腫瘍に対して行われる治療には、肝切除術、ラジオ波・マイクロ波焼灼療法、肝動脈化学塞栓療法、抗がん剤治療、放射線治療、肝移植などがあります。肝内結石症に対しても肝切除術が行われます。肝嚢胞に対しては、エタノール注入療法や、肝嚢胞開窓術が行われます。

以下に、当科で行っているおもな治療内容をご紹介します。

肝切除術

当科でこれまでに行ってきた肝切除術の件数は6800例を超え、本邦随一の症例数です。高崎健教授(当科の前身である東京女子医科大学消化器病センター前所長)が提唱した肝門部グリソン鞘一括処理法による系統的肝切除術は、安全に肝切除術を行うための標準的な手術方法として、今では世界中の肝臓外科医に知られています。当科では高崎健教授、そして山本雅一教授による直接の指導のもと、この方法を中心に、安全性の高い肝切除術を実施しています。最近の合併症発生率は14%以下まで低下し、直近の手術死亡率は0.5%となっています。

特色その1.腹腔鏡下肝切除術

2020年10月に腹腔鏡下肝切除術の世界的指導者の一人である本田五郎医師が当科に加わりました。本田医師はグリソン鞘一括処理法による系統的肝切除術を腹腔鏡下肝切除術にも導入し、手術方法の標準化を進めることで、腹腔鏡下肝切除術の質と安全性を飛躍的に高めました。当科では以前から腹腔鏡下肝切除術を導入して行ってきましたが、本田医師が加わったことにより、より難度の高い肝臓の頭側や背側の腫瘍に対する系統的肝切除術も腹腔鏡下に施行することが可能になりました。他の施設で腹腔鏡手術が不可能もしくは困難な場合でも、当科では安全に施行することが可能な場合がありますので、肝切除術が必要な患者さんは、是非一度ご相談にいらして下さい。

特色その1.腹腔鏡下肝切除術(画像1) 特色その1.腹腔鏡下肝切除術(画像2)

肝切除を腹腔鏡手術で行うことの最も大きな利点は2つあります。ひとつは開腹手術と比較して極端に小さなきずで済むことです。

特色その1.腹腔鏡下肝切除術(画像3)

肝臓は右の肋骨の奥深いところに納まっているため、開腹手術(左)では体壁をかなり大きく切開する必要がありますが、腹腔鏡手術(右)ではいくつかの小さな穴と肝臓を取り出すための最低限の切開ですみます。

もうひとつは出血量が少ないことです。肝臓内の血管では血圧が比較的低いため、気腹によってお腹の中の気圧を上げた状態で手術を行うと、切断中の肝臓の表面からの出血量が少なくなります。

もちろんすべての肝切除術が腹腔鏡手術に適しているわけではありませんが、適切な選択と適切な技術によって開腹手術と変わらない手術成績が得られることはすでに証明されています。

特色その2.通常は肝切除が困難であると考えられるような病状の患者さんに対する手術

6800例超という豊富な経験を活かして、肝切除が困難であると考えられるような病状であっても、確実な肝切除術を成功させています。

症例1下大静脈・心房内の腫瘍栓を伴う肝細胞がんに対する肝切除術
下大静脈・心房内の腫瘍栓を伴う肝細胞がんに対する肝切除術(画像1)
下大静脈・心房内の腫瘍栓を伴う肝細胞がんに対する肝切除術(画像2)
下大静脈・心房内の腫瘍栓を伴う肝細胞がんに対する肝切除術(画像3)
下大静脈・心房内の腫瘍栓を伴う肝細胞がんに対する肝切除術(画像4)

肝細胞がんが心臓内にまで進行しているため余命3ヶ月と言われた患者さんです。肝切除と心臓手術を同時に安全に行いました。患者さんはその後2年間生存し、念願であった娘さんの結婚式に参列されました。

症例2巨大な血管腫に対する肝切除術
下大静脈・心房内の腫瘍栓を伴う肝細胞がんに対する肝切除術(画像5)
下大静脈・心房内の腫瘍栓を伴う肝細胞がんに対する肝切除術(画像6)
下大静脈・心房内の腫瘍栓を伴う肝細胞がんに対する肝切除術(画像7)

肝血管腫が巨大化したため腹満感が強く、歩行も困難になっていました。カテーテル治療が無効のため当科を受診されました。手術によって症状の原因である30cm大の肝血管腫を摘出しました。患者さんは術後3年目にフルマラソンに出場して完走しました。

特色その3.肝内胆管がん(胆管細胞がん)の治療

当科では肝内胆管がんの手術治療を積極的に行っており、これまでに400例を超える手術治療を行ってきました。当科の有泉俊一准教授は、この様な数多くの経験から蓄積されたデータを活かして、山本雅一前教授とともに我が国の肝内胆管がん診療ガイドラインの作成にあたって中心的な役割を務めています。いわゆる肝内胆管がん治療のエキスパートです。

肝内胆管がんは、肝細胞がんと比較すると手術による治療成績が不良で、手術後の5年生存率は一般的に30〜40%くらいでした。しかし近年は、手術と化学療法(抗がん剤治療)を組み合わせることにより5年生存率が約60%まで改善しています。当科でも、手術の前後に積極的に化学療法を行うことで、治療成績が大幅に改善しています。

肝内胆管がん 術後補助療法による生存曲線

4.過去の症例数

肝臓の手術件数(2005年~2019年)